股関節可動域の改善するために大切なこと

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臨床で感じる頑固な股関節の可動域制限。

今回は論文を読んでいて共有したいなと思い、国立病院機構熊本医療センター整形外科様の研究を引用させていただきました。

福 元 哲 也:股関節可動域制限と短外旋筋の癒着の関係,整形外科と災害外科,2019.

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股関節可動域制限と短外旋筋の癒着の関係

目的

当院は精神科患者を含むすべての人工股関節全置換 術(THA)症例の脱臼を予防する目的で 2006 年より前方系 MIS アプローチに取り組み,2013 年からは筋 腱,関節周囲靭帯完全温存を行ってきた.一般的に, 筋腱完全温存困難症例としては男性,肥満,骨形態の ほかに術前可動域制限の強い症例があげられる.特に 内旋制限が強く,内閉鎖筋に萎縮がみられる症例に関 して術中操作および術後可動域の改善のために共同腱 の切離が必要とされている4).2016 年より,関節包温存のしやすさと,大腿骨近位部の剥離操作のしやすさのため,関節周囲靭帯切開前に短外旋筋とその周囲を 剥離している.この剥離操作にて可動域に変化が生じ るかを計測し,手術における効果を考えてみた.

対象および方法

同一術者の行った人工股関節 15 例 15 股で,男性 2 股,女性 13 股,平均年齢は 74.0 歳(55 歳~ 86 歳) である.疾患は変形性股関節症 8 股,転子部骨折術後 2 股,急速破壊型股関節症 2 股,骨壊死 2 股,骨切り 後(ペルテス)1 股である.可動域制限に骨性要素が大きく関与していると判断した症例も 6 股みられた. 剥離方法は関節周囲靭帯と小殿筋の間にコブを挿入 し,手でたたくことでコブの先を上方から後方さらに 後下方に挿入させ,小殿筋,内閉鎖筋,双子筋さらに 外閉鎖筋との癒着を剥離する.(図 1) 計測項目は1剥離のみ行った前後での屈曲角度と屈 曲 90°での内外旋角度を計測した.

 さらに,内閉鎖筋の萎縮状態をCTにて健側との最 大幅比を計測し,80%未満を萎縮ありとし,2内閉鎖 筋萎縮による可動域改善の違いを検討した.

結果

全例で可動域改善が見られた.内旋角度の改善が最 も大きく平均で剥離前 4.3°から剥離後 27.0 となり, 平均 22.6°増加した.屈曲角度も 86.7°から 103.6°と なり,平均 15°改善し,外旋も 20.7°から 38.7°と平 均 18°の改善が見られた(表 1).

両側例 1 例を除き 14 股の中で内閉鎖筋の 80%未満 の萎縮症例は 8 股で平均萎縮率は 62%であった.萎 縮なし症例の内旋改善平均角度の 27.9°に対し,萎縮 あり症例は 17.5°と低かったが十分改善がみられた. 屈曲,外旋角度は改善傾向に大きな差はみられなかっ た(表 2).

考察

我々は 2013 年から筋腱,関節周囲靭帯の完全温存 を目指してきたが,2016 年より関節包温存のしやす さと,大腿骨近位部の剥離操作のしやすさのため,関 節周囲靭帯切開前に短外旋筋とその周囲を剥離してい る.Walter ら8) に よ る と iliocapsular m.と 関 節 周 囲 靭帯は梨状筋を除き一部癒着しており,我々の剥離操 作はこの癒着部位を剥離し,短外旋筋の可動性を高め ることとなる.今回 15 股の剥離にて平均で屈曲 15°,内旋 22.6°,外旋 18.0°と予想以上に改善が得られた. Kapandji6)やその他の研究5)7)より可動域制限に関与 する筋は屈曲では剥離を行ったすべての筋,内旋では 外閉鎖筋,内閉鎖筋,小殿筋後方繊維そして外旋では 小殿筋の前方繊維が関係しているといえる. 股関節可動域制限因子として骨頭変形,骨棘などの 骨性要素と関節内癒着,関節周囲靭帯の拘縮そして関 節周囲筋の拘縮が考えられており,関節拘縮の強い症 例では,まずは関節包切除が行われている.今回の症 例には骨性要素が強く関係していると画像判断された 症例が 6 股含まれているにもかかわらず,全例に可動 域に改善が見られたことは予想していない結果であっ た.股関節の拘縮要因として,軟部組織では関節周囲 靭帯の拘縮と筋短縮による筋の弾力性と伸張性の低下 が大きいと思われてきたが,今回の結果より関節周 囲筋の関節周囲靭帯との癒着も大きな原因と考えら れる.

赤石ら3)は術前内旋角度が平均 29.9°の症例の術中 内旋改善は平均 10°で,CT での内閉鎖筋の 0.8 未満 の萎縮症例で 9.5°,0.8 以上で 11.7 と報告している. さらに赤石ら2)4)は,自験死体調査にて共同腱切離で 17.3°内旋が改善するため,可動域が不十分と判断し た症例は意図的に切離すべきと述べている.また共同 腱完全温存での内旋改善角度については,阿部ら1)は 内旋が 4°改善(43°から 47°へ)すると報告している. 共同筋は saddle より比較的遠位に走行してゆくことから前方系手術での関節周囲靭帯の処置で腸骨大腿靭 帯の上方繊維を切除したとしても内閉鎖筋,双子筋, 外閉鎖筋は剥離されていない.特に坐骨大腿靭帯を温 存する場合は剥離できていないことが予想される.今 回我々は剥離のみで内旋が平均 22.6°改善し,内閉鎖 筋萎縮症例でも 17.5°の改善がみられていた.すなわ ち,切離ではなくまずは小殿筋,内閉鎖筋,双子筋, 外閉鎖筋を関節周囲靭帯と剥離することで内旋角度改 善が効果的に得られるといえる.

まとめ

同一術者で行った人工股関節置換術症例 15 股関 節の小殿筋,内閉鎖筋,双子筋,外閉鎖筋を関節 周囲靭帯と剥離する前と後での股関節可動域の変化について調査した.

全例に改善がみられ,平均改善角度は屈曲角度が 15°内旋角度 22.6°外旋角度 18°であった.

関節拘縮の原因として骨性要素や関節周囲靭帯の 拘縮以外に短外旋筋群の癒着による可動性が大き く関与していることが示唆された.

参考文献

1) 阿部敏臣ら:Anterior lateral-supine approach におけ る後方軟部組織の剥離と内旋可動域の関係.Hip Joint, 43:331 ―334,2017.

2) 赤石孝一ら:Anterolateral-supine approach を用い た THA による短外旋温存の検討.Hip Joint,40:939― 941,2014.

3) 赤石孝一ら:AL-supine spproach における完全短外旋 筋群温存条件下での内旋可動域変化量と脱臼リスク.日 人工関節会誌,46:123 ―124,2016.

4) 赤石孝一,片山 博:Muscle sparing AL-supine ap- proach THA における selective release of short external muscles. Hip Joint,43:367―370,2017.

5) 平野和宏ら:ヒト屍体を用いた股関節外旋筋群の機能 解剖の検討.Hip Joint,35:174―176,2009.

6) Kapandji, I. A:. カパンディ機能解剖学II,P.42 ―58.東 京,医歯薬出版,2010.

7) 西村貴裕ら:後方アプローチ Bipolar Hip Arthroplasty における後方関節包単独の制動効果.日人工関節会誌, 47:501 ―502,2017.

8) Walters, B. L., et al.: New findings in hip capsular anatomy: dimensions of capsular thickness and pericap- sular contributions. Arthroscopy, 30: 1235―1245, 2014

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フィジモンが思う事

こちらの研究ではあくまで手術における効果であり、癒着の程度がわかりません

我々、理学療法士は骨の形を変えることは困難です

今回の紹介した研究では骨性の可動域制限が大きく関与していると思われる症例も含まれており、その症例も可動域が改善していることから

言い訳がひとつ消えましたね。笑

勿論、理学療法では太刀打ちできない癒着かもしれませんが、、、

しかし、癒着の予防は可能ですし、滑走不全であれば可動域を再獲得可能となるかもしれません

それに、出来ない理由を探すよりも、出来る可能性を広げる方が楽しいじゃないですか?

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