理学療法士を目指す学生であれば国家試験の過去問題で、重症筋無力症に関する問題を一度は解いたことがあるでしょう
重症筋無力症の問題を出題する際、同じ神経筋接合部疾患であるLambert-Eaton(ランバート・イートン)症候群と比較することが多いです
つまり、重症筋無力症の勉強だけではきわどい問題で正解できなくなります
ですので、この2つの疾患の病態などをしっかり把握することで余裕で問題に正解できるようになります

この記事を読むことで
- 神経筋接合部での伝達方法
- 重症筋無力症のポイント
- ランバート・イートン症候群のポイント
が理解できます
神経筋接合部
筋は神経の命令を受けて、筋を収縮や弛緩をします
では、神経と筋の間ではどのようなやり取りが行われているのでしょうか?
神経と筋の間でのやり取りを理解することで、神経筋接合部疾患の理解が一段と深まり、忘れづらくなりますのでしっかり理解しましょう

神経終末に活動電位が伝導
→神経終末に存在する電位依存性カルシウムイオンチャネルが開口し、カルシウムイオンが細胞内に流入
→細胞内カルシウムイオン濃度が上昇することで、シナプス小胞からアセチルコリン(Ach)がシナプス間隙に開口分泌
→AchがAch受容体に受容されることで終盤電位が発生
→終板電位が閾値を超えると筋収縮が生じる
上記のような過程を経て、我々の筋は収縮を行なっています
重症筋無力症(MG)

重症筋無力症(MG:myasthenia gravis)は青文字の箇所が障害されます
神経終末に活動電位が伝導
→神経終末に存在する電位依存性カルシウムイオンチャネルが開口し、カルシウムイオンが細胞内に流入
→細胞内カルシウムイオン濃度が上昇することで、シナプス小胞からアセチルコリン(Ach)がシナプス間隙に開口分泌
→AchがAch受容体に受容されることで終盤電位が発生
→終板電位が閾値を超えると筋収縮が生じる
重症筋無力症では胸腺腫を含む胸腺異常が約8割で認められます
この胸腺異常が抗アセチルコリン受容体抗体の産生に関与し、神経筋接合部での伝達障害を引き起こします
疫学的には20~40代の若い女性に多いと言われています
誘発筋電図ではwaning現象(漸減現象)が見られます
waning現象とは反復した刺激により振幅が減少することで、刺激により分泌されたAchがAch受容体に結合できないことで生じます
waning現象と同様のメカニズムで朝は症状(筋力低下)が軽度なのに対し、夕方に症状が強くなる日内変動が見られます
重症筋無力症ではエドロホニウム試験(テンシロン®︎テスト)により一過性に筋力が回復します
クリーゼ(急激な筋力低下・呼吸困難)の誘因として感染や過労、禁忌薬投与、妊娠などがあり、直ちに気管内挿管・人工呼吸管理を行い誘因を探ります
下記にMGFA分類を載せておきます

MGFA分類からもわかるように眼筋型と全身型が存在します。また、初発症状として眼瞼下垂や複視が見られやすいです
四肢の筋力低下は上肢に強く見られます。LEMSの方で覚え方を記載するのでそちらも読んでください
Lambert-Eaton症候群(LEMS)

ランバート・イートン症候群(LEMS:Lambert-Eaton myasthenia syndrome)は緑文字の箇所が障害されます
神経終末に活動電位が伝導
→神経終末に存在する電位依存性カルシウムイオンチャネルが開口し、カルシウムイオンが細胞内に流入
→細胞内カルシウムイオン濃度が上昇することで、シナプス小胞からアセチルコリン(Ach)がシナプス間隙に開口分泌
→AchがAch受容体に受容されることで終盤電位が発生
→終板電位が閾値を超えると筋収縮が生じる
Lambert-Eaton症候群では約6割に小細胞肺癌を合併すると言われ、B細胞の産生した抗体が小細胞肺癌の細胞表面にできた電位依存性カルシウムイオンチャネルと正常な神経の電位依存性カルシウムイオンチャネルを誤認して生じます(交差反応)
小細胞肺癌は喫煙と強く関連することから、中高年の男性に多いということは予測がついたと思います
誘発筋電図では重症筋無力症とは逆にwaxing現象(漸増現象)が見られます
waxing現象とは高頻度の反復刺激によって振幅が大きくなることで、高頻度反復刺激によってカルシウムイオンの流入が蓄積され、筋へ伝達されることで生じます
ちなみに低頻度の反復刺激ではwaxing現象は見られません
Lambert-Eaton症候群では下肢・体幹に筋力低下が強く見られます
覚え方として下肢を英語にするとLower Extrimity(E/L)となります。Lambert-Eaton症候群の頭文字E/Lと同じです。
予後は小細胞肺癌が合併することからわかるように重症筋無力症より不良です
まとめ
青は重症筋無力症、緑はLambert-Eaton症候群が障害される箇所です
神経終末に活動電位が伝導
→神経終末に存在する電位依存性カルシウムイオンチャネルが開口し、カルシウムイオンが細胞内に流入
→細胞内カルシウムイオン濃度が上昇することで、シナプス小胞からアセチルコリン(Ach)がシナプス間隙に開口分泌
→AchがAch受容体に受容されることで終盤電位が発生
→終板電位が閾値を超えると筋収縮が生じる
- 胸腺異常の合併
- 抗Ach受容体抗体
- waning現象(漸減現象)
- 夕方に強く症状が出る(日内変動)
- 初発症状では眼瞼下垂や複視
- 四肢の筋力低下は上肢に強く現れる
- 20~40代女性に多い
- MGFA分類
- クリーゼの誘因(妊娠,感染,過労など)
- 小細胞肺癌の合併
- waxing現象(漸増現象)
- 四肢の筋力低下は下肢に強く現れる
- 中高年男性に好発
- 予後不良
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